
鉄釘を1本も使わず、「ほぞ」というつなぎを指し合わせ、組み手を見せずに組み上げる日本古来の木工技術「指物(さしもの)」。
金属の錆から朽ちてゆく釘づけの木製品と比べ、ほぞ組みの指物は数百倍の強度を持つとされます。しかも外観からはその仕掛けがいっさいわかりません。木を愛しその性質を活かしきる、日本の匠が築き上げた、世界に誇る伝統の技、それが「江戸指物」です。
「木工品は本来、釘を使わずにほぞ組み加工をしてつくるのが本流である」。そう語る江戸神仏指物師・三代目指孝の櫻井久明氏。 何百年と生きた木の命、そして材料資源のことを考え、最低でも200年の歳月に耐えうるものをつくること、これを信条として木に向かい、木と対話しながら丹念に作品を仕上げていく。それは、まさに木に新たな命を吹き込むかのようです。
使い捨てから使い込む文化へ。日本本来のものづくりへの原点回帰を、氏は自らの作品をつくり続けることで提案します。長い年月にわたって美しさと強度を保ち続けるために、指物技法は絶対に欠かせない、未来永劫に伝えていくべき技なのです。
お仏壇の制作には300以上もの工程があります。木取り、木づくりにはじまり、幾種類にも及ぶほぞや仕口、細部のつくりに至るまで何百という道具を使いこなしながら、細心の注意を払って組み立てて、面取りを施すなど丹念に仕上げていきます。
この緻密な作業の手となる鋸(のこ)、鉋(かんな)、鑿(のみ)、木槌などの道具は、作風や求める精巧さに応じてつくられ、その道具それぞれの調整も口伝。体得するまでに数十年を要すると言われています。技術とともに先代から譲り渡されたものづくりの精神。名工はこの数多の道具を作品によって自在に使い分ける、「無用の用」。ここにも匠のこだわりが見え隠れします。
もともと、江戸指物は華奢(きゃしゃ)で粋を旨とします。明瞭で、簡素な美。隠れて目に見えないところにこそ、ものづくりの精神が宿り、心を込めた細部こそが気品ある姿を形づくる。
職人による繊細な配慮が、江戸指物ならではの風情ある逸品を誕生させるのです。

1947 年生まれ。1890 年に祖父・初代指孝が東京浅草千束にて創業した指孝の三代目である。
江戸神仏指物師である父・二代目指孝、重要無形文化財保持者の竹内碧外氏、木工芸作家の本橋玉斉氏に師事。1979年に東海伝統工芸展で初入選以来入選20回。1988年、日本伝統工芸展にて「神代木彩八稜箱」が日本工芸会奨励賞受賞。平成元年、同展にて「神代木彩箱」が文部大臣賞を受賞し、文化庁買い上げとなる。
現在は日本伝統工芸木竹展審査員、東海伝統工芸展審査員、日本工芸界木竹部会幹事、日本伝統工芸展鑑査員など、数々の重責を担う。
江戸時代から伝わる指物、指孝、櫻井久明氏のその技とこだわりについて
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